【第105回】忍び寄る慢性腎臓病(CKD)将来透析にならないためにできること

【第105回】忍び寄る慢性腎臓病(CKD)将来透析にならないためにできること

1. 腎臓ってどんな臓器?

みなさん、腎臓がどこにあるかご存じですか?
腎臓は背中側の腰より少し高い位置に、左右1個ずつあります 前から見ると肝臓の裏にあって、ソラマメのような形をしていて、こぶし大、約10cm程の大きさです。

腎臓の役割

腎臓はどのような役割を担っているのかというと、血液中のいらないものを、ろ過して、尿として外に出しています。
この機能があることで、私たちの身体の中の、水分やミネラルのバランスが保たれています。
また、腎臓はホルモンを分泌し、貧血などにならないように、赤血球の量を調節しています。 これらの働きから腎臓の働きは、血液と密接な関係にあることが分かります。

尿を作る仕組み

ところで、腎臓といえば、尿を作るところというイメージをお持ちではないでしょうか?
その、尿を作るというシステムを、もう少しくわしく説明します。
腎臓にある糸球体という毛細血管の塊から老廃物をこし取り、尿の元、原尿と言われるものを作ります。
原尿は、次に尿細管という通り道に運ばれ、こし取り過ぎた栄養や水分を必要な分は再吸収して、改めて不必要なものだけを濃縮して取り出し、尿として膀胱へ運びます。
そして、おしっことして、体外に排出されるのです。
料理をする時に、お豆腐を水切りする様子を、思い浮かべるとイメージしやすいかと思います。

腎臓機能が低下すると

腎臓は、機能が低下すると 当然、うまく働かなくなってしまいます。
例えば、体内の水分調整ができなくなると、むくみやすくなります。
赤血球の調整ができなくなると、息切れがでたり、疲れやすくなります。
また、それらの調整がうまくできなくなると、余分な塩分と水分の排泄が十分にできず、血液量が増加し、血圧の上昇につながります。

腎臓がダメージを受けた状態が続くと、血尿が出たり、たんぱく尿がでたりします。
ただ、症状を伴わないことが多いので、この状態を放置する人が少なくありません。
そうして、気づかないうちにゆっくりと悪くなり、症状が現れた時には、慢性腎臓病CKDと診断されることが多いのです。

2. 慢性腎臓病について

診断基準

慢性腎臓病の診断は、尿検査と血液検査、時には画像診断なども用います。
示している通り、尿の異常と血液検査でわかるeGFRという腎臓の点数が60未満、これらのどちらか、もしくは両方が3ヵ月以上続く場合に、慢性腎臓病CKDと診断されます。
現在、日本人では8人に1人、また、日本透析医学会の2020年の調査では、70~74歳の方では約18%の方、つまり約5人に1人が慢性腎臓病と報告されています。 慢性腎臓病がいかに身近な病気であるかが、この数字から分かります。

診断基準と状態について

腎臓は、とてもがんばり屋なので、示しているCKDのステージ分類でいうと、eGFRの点数が60点以上であるステージのG1や2では症状はほとんどなく、60点未満のG3あたりで疲れやすくなったなとか、息切れの症状が出てても、風邪かな?疲れかな?と受診をされないことも多いようです。
そのため慢性腎臓病であると診断されるときにはステージG3やG4という腎臓の点数が半分近くまで落ちていることも珍しくありません。 最終的には、透析や腎移植といった、非常につらい治療が必要になります。

3. 生活習慣病がもたらす腎臓への影響

生活習慣病とは

ここからは、生活習慣病が腎臓にあたえる影響についてお話します。生活習慣病について、少し整理しましょう。
暴飲・暴食、運動不足、睡眠不足、喫煙や飲酒が要因となり、発症する病気のことです。
日本人の死因の上位を占める、がん、心臓病、脳卒中は、この生活習慣病に含まれます。

血管にダメージを与える要因

イメージとして高血圧はゴムホースの中の水が多すぎて、今にも破裂しそうな状態と考えればわかりやすいと思います。また、糖尿病は血管の中の多すぎる糖分が血管を傷つけてしまう状態と言えます。
生活習慣病ではないですが、喫煙もたばこの成分が血管にダメージを与えると言われています。
脂質異常症、高脂血症は脂質が血管の中で泥のようにたまって、血の流れを悪くしますし、肥満自体も血流を悪くすると言われています。 そのためこれらの疾患は、血管を傷つけてしまう要因となります。

さて、少し腎臓に話を戻しますが、腎臓は糸球体という血管が集合したものです。
血管はゴムホースのようなものです。
硬くならないように、しなやかに保つことが大切なのです。
血管が硬くなる要因は、先ほど申した通り生活習慣病です。
それを予防することは、結果的に、腎臓病になるのを防ぐことにもなります。 生活習慣病を予防して腎臓を守りましょう。

4. 腎臓を守るための生活習慣病治療

高血圧

それでは、もしも慢性腎臓病になってしまったら、生活習慣病をどのように治療すべきかをお話します。
高血圧の治療についてです。
腎臓と血圧は、切っても切れない関係にあります。高血圧が続くと、腎臓の機能が低下し、さらなる高血圧をまねくという悪循環におちいります。
血圧をきちんとコントロールすると、腎臓の機能低下を遅らせると報告されています。
目標値は、上が130 下が80です。
75歳以上の方は140 90ぐらいを目安としてください。
塩分は1日6g程度が目安と言われています。
これがどれぐらいかというと、平成30年の厚生労働省の調査では1日の塩分摂取量は平均すると男性で11g、女性で9.3gと、およそ1.5から2倍も摂取していると言われています。 塩分の取りすぎに注意することと、主治医の先生とよく相談の上、きちんと薬を服用してください。

脂質異常症

次に、脂質異常症についてです。
脂質異常症は、血液中のコレステロールや中性脂肪が高い状態のことで、動脈硬化の原因となります。
また、慢性腎臓病の発症や進行にも大きくかかわっています。 慢性腎臓病は、すでに脳疾患や、心臓病などの血管系合併症の、高リスク状態にあるためLDLコレステロールの、目標値は、示している通りで、健康な人より、厳しいものとなりますが、油分の多い食事を避けて、主治医の先生の指導の下、治療にあたってください。

糖尿病

次に、糖尿病についてです。
透析治療を受ける原因となる病気でもっとも多いのは、糖尿病性腎症です。
糖尿病が進行すると、腎臓の状態が悪化する悪循環に陥ります。
糖尿病性腎症を早期に発見し、血糖コントロールを行うことでその進行を抑えることができます。
血糖コントロールとは、食事療法・運動療法を基本に、薬物療法を加えて、血糖値を正常値に近づけて維持することです。
その指標にHbA1cというものがあり、7.0%未満、体温の37.0℃の7と覚えて下さい。
75歳以上の方は7-8%で管理することが推奨されています。血糖コントロールを行う際は、特に高齢の方では「低血糖」に注意しなければなりません。
低血糖になると、冷や汗、動悸、意識障害、けいれん、手足の震えなどの症状があらわれます。 主治医の先生とよく相談の上、医師の指示を守って治療にあたってください。

5. 慢性腎臓病と付き合う

慢性腎臓病と診断されてしまったら、今の医学では少しでも進行が遅くなるように付き合うほかありません。
少しずつでも気を付けることで、病気の進行を遅らせることができます。
過労を避け、規則正しい生活を送りましょう。
腎臓は体が動き続けると、働き続けるので、睡眠をとって、休ませることが大切です。
感染症には十分気をつけましょう。
慢性腎臓病になると免疫力が下がりやすくなります。
感染症にかかると腎臓がより傷ついてしまうので、徹底した感染症予防対策に取り組みましょう。
また、腎臓を動かすのは水分、尿を作るのも水分なので、水分をしっかりとって腎臓を守ることを心がけましょう。
水分の摂取量に関しては、腎臓の状態によって変わるので、主治医の先生とご相談ください。

詳しくはYouTube動画をご覧ください

【第105回】忍び寄る慢性腎臓病(CKD)将来透析にならないためにできること
講師:神崎中央病院 人工透析科・センター長 長谷川 申治 医師

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